人よりも飛びぬけた学力や才能を持っている子どものことを、アメリカでは「ギフテッド」と呼びます。そしてギフテッドの子ども達の才能を伸ばすために行われる教育を「ギフテッド教育」といい、アメリカをはじめとする海外ではポピュラーな教育方法として広く知られています。ここでは、ギフテッドやギフテッド教育について、わかりやすくご説明していきましょう。
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飛びぬけた知能や才能を伸ばすギフテッド教育
ギフテッド教育とは、生まれつき特定の分野に突出した才能がある子どもを対象にし、その子の才能を伸ばすために行う特別な教育のことをいいます。ギフテッド教育は、「早期教育」が目的というわけではなく、みんなが横並びで行う教育では伸ばしきれない部分や、補えない部分を「支援」するための教育として機能しています。
ギフテッドの定義に明確な決まりはない
実は、ギフテッドと呼ばれる子ども達に明確な決まりはありません。アメリカでは、州や機関ごとにその基準はまちまちです。
一般的には
- IQが130以上ある
- 学習能力が高い
- 思考力が高い
- 芸術に秀でた才能がある
- 好奇心が旺盛
- ボキャブラリーが豊富
といった子がギフテッドである可能性が高いと言われています。ただ勉強ができるというだけでギフテッドというわけではありませんし、ギフテッドの子どもは能力に凹凸があり、極端に得意な分野と苦手な分野がある子も多いです。
子どもによってその個性はさまざまなため、州や機関によって基準や判定方法が少しずつ異なるのでしょう。
アメリカでのギフテッド判定方法は?
アメリカでは、ギフテッドを判定するために、さまざまな試験や質問が用いられます。
例えば
- WICS-IVなどの知能検査(IQ検査など)
- 親や担任への質問
- 学校での成績(学力テストなど)
- 観察記録
など多岐にわたります。数値化してしまえば判定は容易いですが、ギフテッドは学力だけではなく、芸術面に才能を持っている子どもも対象です。芸術に関する才能は試験や検査で測れるものではないため、実際にその子の日常の生活を観察した記録などを参考に、判定されることもあります。
日本でも徐々に取り入れられつつある教育方法
ギフテッド教育は、昔は「天才児教育」と呼ばれ、1000年以上も前から各国で取り組みが行われていましたが、表立って体系化されたのは19世紀以降からと言われています。そして20世紀に入り、いち早くギフテッド教育として制度を整えたのがアメリカです。
日本はもともと、天才児を伸ばすことよりも、皆が平等に分け隔てなく能力を伸ばすことに重きを置く教育制度をとっていたため、ギフテッド教育を取り入れることは長くありませんでした。しかし近年は自治体や私立学校などで、ギフテッド教育が徐々に取り入れられるようになってきています。
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ギフテッド教育が注目されているのはなぜ?
フェイスブックの創始者であるザッカーバーグや世界的に有名な歌手レディーガガも、アメリカで行われたギフテッド教育に参加していた過去があります。また、ギフテッドの基準を満たす子がギフテッド教育を受けるために、ギフテッド教育を行っていない国の子どもがアメリカやカナダへ留学をするというケースも増えてきているそうです。
日本のメディアでもギフテッド教育が注目されることが増えてきましたが、ギフテッド教育を行うことによって得られるものは何なのでしょうか?
持って生まれた才能を伸ばせる環境が必要
ギフテッドの子どもは、一定の分野において人よりも突出した才能があります。しかし、学校に通うということは、みんなとレベルを合わせての学習内容をこなさなければいけません。せっかく伸びしろがあるのに、自分のレベルに合った学習を行えないことで、その子どもの才能が存分に伸ばしきれなかったり、潰れてしまう可能性があります。
ギフテッド教育は、その子に合ったレベルでの学習が行えます。また、自分の才能を存分に発揮できる環境とサポートが用意されています。
ギフテッドの多くは日常で「生きづらさ」を感じている
ギフテッドの子どもは、人よりも何かに集中したりこだわったりする傾向が強いため、「変わった子ども」と認識されてしまいがちです。勉強が出来過ぎたり、他の子どもがしないような鋭い質問を先生にしたりすることで「扱いづらい子ども」とみなされることもあります。
また周りの友達やクラスから孤立してしまい、不登校になってしまう子も実は大変多いのです。先生や学校も、そういった子にどう対処してよいのか分からないケースがめずらしくありません。
ギフテッド教育は、専門の教職員や専門医が関わっているため、そんな子どもへのサポートやケアも充実しており、安心して学校に通わせることができます。
同じギフテッド同士が交流できる場所になる
ギフテッド教育を取り入れている学校に通ったり、ギフテッド教育のプログラムを受けることで、同じギフテッドの子ども同士が交流することができます。同じ境遇どうしだからこそ共感できることもあるでしょうし、仲間ができることで「生きづらさ」から少しでも解放されるかもしれません。
孤独を感じる人が多いギフテッドの子どもにとっては、ギフテッド教育が受けられる場所は、自分にとっての「居場所」のように感じる子も多いでしょう。
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アメリカで実際に行われているギフテッド教育
日本ではまだまだ取り入れている機関が少ないギフテッド教育ですが、実際にギフテッド教育に力を入れているアメリカでは、どのような方式でその教育を行っているのでしょうか?具体的な教育方法を、お伝えします。
エンリッチメント方式を取り入れている
エンリッチメント方式では、ギフテッドの子どもは普通の子どもと同じクラスで一緒に勉強をしますが、他の子には与えられない特別な課題を与えられます。同じ分野でもみんながしている問題よりも、難易度の高いものが出題されることが多いようです。
また数学コンテストや弁論大会や資格の取得など、ギフテッドの子どもの才能が伸ばせるような機会の提案やサポートを行ったりもします。
プルアウト方式について
プルアウト方式では、ギフテッドの子どもは通常のクラスで勉強し、勉強内容も周りのみんなと変わらないものを学習しますが、一定の時期になるとギフテッドの子どもだけを集めたクラスや学校に通います。
例えば、アメリカでは週に1度同じ学区内のギフテッドの子どもだけを集めたクラスで難易度の高い授業を受けたり、興味のある課題に取り組んだりといったことを行うのです。夏時期のサマーキャンプを行うことがあるのも、プルアウト方式の特徴です。
アクセルレイト方式を活用する
アクセルレイト方式と言うと聞きなれない言葉かもしれませんが、「飛び級」や「飛び入学」という言葉なら聞いたことがあるという方も多いかもしれませんね。子どもに能力があると判断された場合は、学年を飛び越して進級や進学ができてしまうという方式です。
小学生でも大学生の勉強をしている子がいたり、未就学の年齢なのにも関わらず小学校に通うことができるのも、アクセルレイト方式が採用されているからです。
おわりに
日本では、まだまだ取り組んでいる教育機関は少ないですが、東京の一部の自治体や学校を中心に、ギフテッド教育に力を入れ始めているところが徐々に増えつつあります。もしかすると、今後は日本もアメリカのように、ギフテッド教育がポピュラーになる日もそう遠くはないかもしれません。
子どものそれぞれの才能が、のびのび存分に発揮できる場所がこれからさらに増えていくといいですね。
※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。ご了承ください。
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福祉系大学で心理学を専攻。卒業後は、カウンセリングセンターにてメンタルヘルス対策講座の講師や個人カウンセリングに従事。その後、活躍の場を精神科病院やメンタルクリニックに移し、うつ病や統合失調症、発達障害などの患者さんやその家族に対するカウンセリングやソーシャルワーカーとして、彼らの心理的・社会的問題などの相談や支援に力を入れる。現在は、メンタルヘルス系の記事を主に執筆するライターとして活動中。《精神保健福祉士・社会福祉士》
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