文部科学省が、全国の教育事務所に「スクールロイヤー」を配置する構想を打ち出しました。「ロイヤー」は英語で「弁護士」という意味です。学校の弁護士とは、どのような存在なのでしょうか。教育現場に「弁護士」を配置する意図、「スクールロイヤー」の役割と課題について解説します。
「スクールロイヤー」の定義
文科省は平成29年度から、「スクールロイヤー」を活用する研究調査を続けてきました。アメリカの教育システムでは一般的な役割で、学校にかかわる法律関係の仕事を担当しています。日本においては、「スクールロイヤー」の定義についていくつかの見解があります。
【文部科学省】いじめ防止のための助言・相談役
文部科学省の見解では、「スクールロイヤー」は全国の教育事務所に籍をおく弁護士として、主にいじめ問題に対応する役割が期待されています。法律の専門家としての立場から、いじめ防止対策や、実際に起こったいじめ問題に関する助言を行ったり、相談を受けたりするのが「スクールロイヤー」であるという定義づけです。基本的には子どもと直接かかわることはなく、教師との協力関係が想定されています。
【中央教育審議会】モンスターペアレンツ対策?
中央教育審議会は、文部科学省内に設置されている審議会です。専門の委員が教育問題について調査審議し、文部科学大臣や行政機関の長に意見を述べます。平成27年度の答申において、「保護者や地域からの要望等に対応するため、弁護士等の専門家から支援を受けたり、専門家の知見を直接聞いたりすることができるような仕組み」を構築する手助けをすると述べました。「スクールロイヤー」が、昨今問題になっているモンスターペアレンツやスクールクレーマーに対応する際の協力者として活動することを想定しているようです。
【日本弁護士連合会】子どもの最善の利益を守る
文部科学省や中央審議会の答申を受けて、日本弁護士連合会は2018年に「『スクールロイヤー』の整備を求める意見書」を提出しました。この意見書のなかで、「スクールロイヤーとは、子どもの最善の利益を実現するものである」と定義づけられています。何か事件が起こってから、現場に介入するのではなく、トラブルが起こる前から予防的に学校へ助言を行うことが大切であり、けして「学校にやとわれた代弁者」ではない、ということが意見として述べられています。
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「スクールロイヤー」制度の運用
「スクールロイヤー」という制度が検討される背景には、現場の教員の負担増があります。年々増加するいじめ問題、モンスターペアレンツと呼ばれる保護者の、理不尽な要望、地域住民の苦情など、想定範囲を超えた仕事が増えています。働き方改革を推進するためにも、専門家の協力は不可欠だといえるでしょう。
全国各地の教育事務所に300人を配置予定
文部科学省は、全国各地の教育事務所に300人の「スクールロイヤー」を配置する方針を固めました。財源は地方交付税でまかない、年間4億円の費用を見込んでいます。実施予定は、2020年度です。全国の教育委員会に対して行ったアンケートによれば、76%が法律の専門家の配置が必要だと述べたそうです。とはいえ、学校に常駐するわけではなく、通常の弁護士業務を行うことに加え、必要に応じて学校に対応するというシステムが基本になりそうです。
スクールロイヤー導入事例
日本ではなじみのない「スクールロイヤー」制度を、いちはやく取り入れた自治体もあります。大阪府は、2002年の段階で弁護士と社会福祉士を学校へ派遣する、「子どもサポートチーム」という取り組みをはじめていました。現在は、子どもの問題にくわしい9人の弁護士が、大阪府教育庁に「スクールロイヤー」として登録しています。三重県では、いじめ防止のための出前授業を担当するという取り組みが行われました。東京都の江東区でも、23区にさきがけて2019年の4月から導入されています。
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子どもたちも大学生になり、自分の子育てはひと段落。保育士として、地域のコーディネーターとして、子育て支援・子ども支援にかかわっています。ゆる~く子育て楽しみましょう!
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