女性の社会進出や個人を尊重するという考え方が進んだ、現代。その流れにともない、結婚に対する価値観も大きく変化してきています。そのひとつが、夫婦別姓の問題です。ここでは、夫婦が同じ姓を名乗らない事で生じる、メリットとデメリットについてご紹介します。
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日本の婚姻による姓の変化はどうなっている?
現在の日本の民法第750条では、 すべての夫婦が夫もしくは妻側の同じ姓を名乗らなければならないとされています。また、結婚したカップルのうち約96%が夫の姓を選んでおり、妻側の姓を選ぶケースは少ないという現実があります。
実は歴史が浅い?夫婦同姓による婚姻
夫婦が同じ姓を名乗るという決まりは昔からあるように思われますが、夫婦同姓による婚姻の制定は、なんと1897年。夫婦同姓が民法で制定されてから、まだ120年程度という浅い歴史です。1897年というと、明治30年。この夫婦同姓の制定は、戦後の憲法改正でも変わる事なく、令和になった現在でも引き継がれているのです。「時代の流れと共に夫婦別姓を」という声が相次いでいますが、実は1867年当時の法律では、夫婦別姓が原則でしたので、驚きですね。
現在では夫婦別姓はまだ認められていない
結婚した後に同姓を名乗るのか別姓を名乗るのかを選択できれば理想的ですが、2019年現在では、まだ夫婦別姓は認められていません。
1996年に、夫婦が希望するなら別姓を名乗っても良いとされる民法改正案が法相に出された事もありましたが、「別姓になったら家族の絆が崩れる」というような意見を持った反対派も多くいた事から、法改正までは至っていない現状です。
このような経緯から、夫婦別姓を名乗りたいカップルの場合は婚姻届を提出してしまうと同姓を名乗らなければならないため、事実婚のスタイルを取らざるを得ない状態となっています。
夫婦別姓のための訴訟が起こっている現実も
夫婦別姓が認められていない現代の日本ですが、2019年には夫婦別姓のための集団訴訟が起こっていた事をご存じでしょうか?この集団訴訟は、夫婦別姓を望む事実婚の夫婦3人が“夫婦同姓は憲法に違反する”として50万円の国家賠償を求めたものです。結婚後も仕事を続ける女性が増えた事などにより、姓が家族の一体感につながるとは考えていない人の割合が増えている事を認めた上で、 「国会の立法政策として考慮されるべき事柄である」と指摘され、請求棄却されました。
しかし、2019年の参院選では「夫婦別姓を認めるか」という所に焦点が集まるなど、近年では夫婦別姓に対する動きが大きく注目されてきています。
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夫婦別姓にする事でどんなメリットがある?
平成29年度に内閣府により行われた「家族の法制に関する調査」では、「改正しても構わない」という回答が42%を超え、「必要はない」という回答は29%に留まりました。改正しても構わないという意見の多い夫婦別姓ですが、改正されるとどのようなメリットあるのかを見ていきましょう。
自分の名字を失わなくても良い
出生届が提出された時から持っている自分の名字は、夫婦同姓である現在の制定により、婚姻届が出されるのと同時に失われてしまいます。しかし、自分の家族が少ない事などから「この名字を守っていきたい」と思っている女性は、決して少なくありません。夫婦別姓を選択する事ができれば、それぞれの事情や思いやりが尊重され、誰もが名字を失わずに済むのです。
婚姻後、大量の諸手続きをする必要がない
婚姻届を提出し夫の姓を名乗る事になれば、まずは大量の諸手続きに追われる事になります。財布に入っているカード関連を始め、パスポートを持っている人はパスポートの手続きなども行わなければなりません。
ゆったりとした新婚生活を思い描いていた人にとって、想像を絶する現実がそこにあります。夫婦別姓が認められればこの手続きは必要なく、引っ越しの片づけや新生活への順応に集中する事ができるのです。
考えられる事務処理対応
- 銀行口座
- 各種クレジットカード
- 各種保険
- パスポート
- 運転免許
- 健康保険証
- マイナンバー
- 印鑑登録
- スマホなどの名義
結婚に対する障害がなくなり結婚しやすくなる
結婚したい気持ちはあるけれど、夫婦別姓が認められない事から結婚に踏み切れないカップルは年々増えつつあります。 自分の姓を捨てたくない女性や、女性ばかりが名字を変える事に対する不平等さに憤りを感じている人にとって、夫婦同姓は“結婚”に対する大きなハードルです。夫婦別姓が認められれば「姓」という面での障害が解消され、結婚に踏み切る事のできるカップルも増えるのではないでしょうか?
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夫婦別姓にする事でどんなデメリットがある?
上記に夫婦別姓でのメリットを挙げましたが、夫婦別姓が認められる事で結婚するカップルが増え、結果的には経済効果や出産数の増加が見られるようになる可能性もあります。それでは次に、夫婦別姓にする事でのデメリットも見ていきましょう。
結婚時に夫婦別姓についてもめる可能性がある
夫婦別姓が認められた後に最も多いトラブルになると予想される事があります。それは、夫側の実家が家柄を守りたい家系である場合や、両家の両親が夫婦別姓を認めない場合は、これがきっかけで結婚が白紙になったり、結婚への障害に発展してしまったりする事も懸念されます。
夫婦別姓が認められていない現代では、夫婦同姓である事が結婚への障害になっていますが、夫婦別姓が認められれば夫婦別姓が結婚への障害になってしまうケースもあるかもしれません。
日本ならではの家族観が薄れる可能性がある
夫と妻、そして子どもが同じ名字を名乗るという事は、はっきりと実感する機会は少ないかもしれませんが、日本の夫婦同姓ならではの一体感が常に生まれている状態です。 しかし、夫婦別姓になってしまうと、夫婦や家族にしか得られない一体感が希薄になってしまう可能性があります。また、別姓の場合は離婚などで旧姓に戻す手続きが不要になるため、これらの理由から離婚へのハードルが下がり、離婚率が上がってしまう事も懸念されています。
子どもがどちらの姓を選択するかでもめる
夫婦別姓というのは、夫婦だけでの暮らしであれば特に問題はありませんが、子どもができた場合は話が変わってきます。子どもがどちらの姓を名乗るのかで、トラブルが発生する可能性があるからです。子どもは、夫か妻どちらかの姓を名乗らなければなりません。そうなると「男の子は跡継ぎだから、うちの名字にしなさい」というような義実家との争いが生まれる事もあり、子どもに選ばせる場合も選ばれなかった側のショックもあるでしょう。
また、将来夫婦が離婚する事になり子どもとの姓が異なる場合、子どもの姓だけを変更しなければなりません。その場合は、子どもへの適切なケアが特に重要になります。
おわりに
夫婦が同姓でなければならないという現在の決まりは、姓を変えたくないカップルにとっては大きな障害になってしまいがちです。そのため婚姻届を出さず、事実婚を選ばなければならない人たちも多くいるでしょう。すべての人が自由に姓を選択できる社会であれば理想的ですが、今回挙げたようにデメリットが存在しているのも確かです。
これらのデメリットを埋められるような夫婦別姓の制度が認められる事で、より良い夫婦関係が築けるようになるのではないでしょうか?
※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。ご了承ください。
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福祉系大学で心理学を専攻。卒業後は、カウンセリングセンターにてメンタルヘルス対策講座の講師や個人カウンセリングに従事。その後、活躍の場を精神科病院やメンタルクリニックに移し、うつ病や統合失調症、発達障害などの患者さんやその家族に対するカウンセリングやソーシャルワーカーとして、彼らの心理的・社会的問題などの相談や支援に力を入れる。現在は、メンタルヘルス系の記事を主に執筆するライターとして活動中。《精神保健福祉士・社会福祉士》
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