「マシュマロテスト」とは、1960年代から70年代にかけて、心理学者のウォルター・ミシェルが行った子どもの自制心を計るための実験です。今回は、初めてきく人も多いマシュマロテストからどのようなことが導き出せるのか見てみましょう。また、マシュマロテストの方法もご紹介します。
マシュマロテストが示す自制心と成功の関係
「マシュマロテスト」という実験を聞いたことがあるでしょうか? マシュマロテストとは、1960年後半から1970年代前半にかけて、アメリカ・スタンフォード大学の心理学者ウォルター・ミシェルが4歳児を対象に行った実験です。自制心とその後の社会的成功に関連性があるのか調べることが、実験の目的でした。
2個目のマシュマロを得られた子どもは3割
テストに参加したのは4歳児186人。一人ずつ以下のような実験を行いました。
- 椅子と机、机の上にマシュマロが1個置かれた部屋に子どもを入れる。
- 子どもに対し、実験者は「私がここに戻ってくるまでの15分間、マシュマロを食べるのを我慢すれば、もうひとつマシュマロをあげるよ」と言い、部屋を去る。
- 実験者は部屋を出て子どもの様子を観察する。
実験の結果、1個目のマシュマロを我慢し、2個目のマシュマロをもらえた子どもは全体の3割ほどでした。
自制心が強ければ社会的に成功できる?
ミシェルは、マシュマロテストを受けた子どもたち50年にわたって追跡調査を行い、我慢する心=自制心の強さとその後の社会的成功に相関性があるのかを調べました。
その結果、2個目のマシュマロを手に入れた子どもと、手に入れられなかった子どもとの間には、大学進学適性試験の総得点で210点もの差があったことがわかりました。
さらにその後も調査を続けていくと、2個目のマシュマロを手に入れた子どもたちは、社会的地位の高い仕事に就き、肥満指数が低い傾向にあることがわかったのです。
このことから「自制心と社会的成功には関連性がある」と見なされたのです。この結果は最近まで、多くの人から支持を得てきました。
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50年後のマシュマロテスト再実験
2018年、ニューヨーク大学のテイラー・ワッツとカリフォルニア大学アーバイン校のグレッグ・ダンカン、ホアナン・カーンは、マシュマロテストに疑問を抱き、900人に対象を拡大してマシュマロテストを再び行いました。ミシェルのテストで対象となったのがスタンフォード大学付属幼稚園の園児であるのに対し、ワッツらの実験では人種や民族、親の学歴や年収において多様な子どもを対象にしたのです。
自制心より社会的・経済的背景の影響がカギ
再実験から導き出された結論は、ミシェルのものとは異なるものでした。
- マシュマロを我慢して、2個目を手に入れることができたのは、裕福な家庭環境の子どもたちだった。
- 自制心の強さは、3歳までの親の年収や環境で決まる。
「実験者の対象となる子どもの家庭の経済状態が、自制心の強さに影響する」のなら、その子どもが大人になったときに社会的成功を得られるかどうかも、親の経済力と関係があることになります。
ミシェルの実験のときには、大学付属幼稚園という限られた環境の子どもが対象だったため、見えにくかった「経済的な環境の差」が、再実験で対象者をより広範囲にした結果、あぶり出されたといえます。
2個目のマシュマロを信じられる理由
ワッツらはマシュマロテストの再実験を通じて、次のように考えました。
経済的に恵まれている子どもは、大人との約束を守ることでごほうびをもらえた経験があります。そのため、2個目のマシュマロのために目の前にあるマシュマロを我慢できるのです。
ところが、経済的に恵まれていない子どもの場合、大人と約束しても、大人の都合で守られなかった経験があるケースが多いため、大人との約束を信じることが難しくなります。2個目のマシュマロが本当にもらえるか確信できないため、目の前にあるマシュマロを食べてしまう傾向があります。
あるいは「マシュマロを置いているうちに誰かに取られてしまう」と考えてしまうような経験もあるでしょう。
このような考察を経て、ワッツらは「子どもの自制心には、親の経済力が影響している」と結論付けました。
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企業取材や社史制作をメインに、子供の出産を機に教育や会計などの記事も手がけています。家族は小学生高学年の娘、夫。関心事は教育やライフプランのことなど。「これからの時代を生きるために必要な力って何?」をテーマに、日々考えています。
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