女性の年代別正規雇用率は20代後半をピークに下がり、子育て期を経て子どもが自立しても上がることはありません。こうした状況はグラフの形状から「L字カーブ問題」とよばれ、女性が活躍できる社会を指向する日本において、新たな問題となりつつあります。
ここでは、L字カーブ問題とその背景にある日本の労働環境について解説していきましょう。
女性の働き方を示すM字カーブとL字カーブ
女性の年齢別の働き方をグラフで表すと、就業率は「M字カーブ」、正規雇用率は「L字カーブ」を描いています。どちらも、出産・子育てという女性のライフイベントが大きくかかわっていることがわかります。
ここでは、それぞれのグラフが示している内容について解説します。
解消されつつあるM字カーブ
女性の年齢別就業率を表すグラフを見ると、出産・子育てを機に仕事を辞めて、子育てがひと段落すると再び働き出す傾向が見られます。
出産・子育てママ世代ともいえる25歳~34歳の就業率がその前後の年代に比べてガクンと下がるため、女性の働き方は「M字カーブ」とよばれています。
総務省の「労働力調査(基本集計)」によると、2021年の調査における25歳~34歳の女性の就業率は1981年の調査時に比べ、下記のように30ポイント以上上昇しています。グラフで見るとM字カーブの谷が浅くなっており、M字カーブ問題は解消されつつあることがわかります。
25~29歳 | 30~34歳 | |
---|---|---|
1981年 | 50.0% | 48.9% |
2001年 | 71.1% | 58.8% |
2021年 | 86.9% | 79.4% |
働き方の中身を問うL字カーブとは
出産・子育てママ世代の就業率が上昇していることは、女性の自立という意味から意義のあることです。しかし、就業率が上がれば問題はすべて解決したわけではありません。
近年、新たな問題として「L字カーブ問題」が議論されるようになっています。
「L字カーブ」とは、女性の正規就業率のグラフの形状を指す表現です。女性の正規雇用率は25~29歳をピークに、その後は下り坂になります。2012年と2019年の調査を比べると、25~29歳の正規雇用率は2012年で4割超、2019年で5割超程度となっています。
女性の就業率と正規雇用率のグラフを合わせて見ると、2020年あたりの女性の働き方について以下のようなことがわかります。
- 出産・子育て世代の前半といえる25歳~29歳女性の8割以上が就業し、正規雇用労働者は5割
- 子育て世代の後半にあたる30~34歳以降、50代前半までの世代も8割前後が就業しているが、正規雇用は5割に満たず、35歳以降は4割を切る
つまり、子育てが本格化する30代前半およびそれ以降の世代の女性は、その多くが非正規雇用で働いているのです。
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女性の正規雇用率がL字カーブを描く背景
女性の正規雇用率がL字カーブを描く背景には、育児と仕事の両立を可能にさせる環境が会社・家庭ともに十分整っていない点が挙げられます。企業の労働環境と家庭内での夫婦の意識について、それぞれ見てみましょう。
正社員で仕事と育児を両立させる難しさ
子育てをしながら、正規雇用つまり正社員として働く場合、フルタイム勤務が大きなハードルになります。勤務中、子どもを預ける認定こども園などの施設は以前に比べて整備されつつあるものの、残業があると預かってもらっている時間内に迎えに行けなくなるなど、仕事と育児の両立はたびたび困難にぶち当たることがあります。
そのため、出産前は正社員として働いていた女性の中には、出産後は仕事と育児を両立させるために非正規雇用の道を選ぶ人が少なくありません。
その後、年齢層が上がるにつれて正規雇用で働く女性が減っていく背景には、子育てがひと段落しても、介護などの新たな問題が生まれていると考えられます。
根強く残る家庭内の役割分担意識
家庭内には依然として「育児や家庭生活は女性、労働は男性」という役割分担の意識が残っています。そのため、女性は社会に出て働く際、いつも育児や家庭生活とのバランスに悩むことになります。
一方で、育児や家庭生活と仕事のバランスを意識して働いている男性がどれぐらいいるでしょうか。少子高齢化による労働力不足を補うために、政府は女性が活躍できる社会の実現を後押ししていますが、そのためには、男女ともに育児・家庭と仕事のバランスを考える必要があるでしょう。
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企業取材や社史制作をメインに、子供の出産を機に教育や会計などの記事も手がけています。家族は小学生高学年の娘、夫。関心事は教育やライフプランのことなど。「これからの時代を生きるために必要な力って何?」をテーマに、日々考えています。
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