2022年6月に児童手当法が一部改正され、同年10月支給分から一定額以上の所得がある人への児童手当特例給付が廃止されます。今回の一部廃止の背景には「本当に必要なところにお金をかける」という政府の方針があります。
ここでは、児童手当制度の概要や一部廃止の理由、廃止された給付分の使いみちなどについて解説していきましょう。
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児童手当特例給付の廃止ってどういうこと?
中学生以下の子どもを育てている、一定額以下の所得(※)の人には毎月、児童手当が支給されています。また、児童手当の対象外となる人には「特例給付」が支給されています。
ここでは現在の児童手当制度についておさらいしながら、児童手当特例給付の廃止について見てみましょう。
※収入から経費などを差し引いた額。給与をもらっている人は、給与から給与所得控除を差し引いた額
児童手当の所得制限を超えると特例給付に
児童手当は、0歳から中学校卒業(15歳の誕生日を迎えて最初の3月31日まで)までの子どもを育てている人に支給される手当です。
子どもの年齢によって、以下の表のように支給額が異なります。
児童の年齢 | 児童手当の額(一人あたり月額) |
---|---|
3歳未満 | 一律15,000円 |
3歳以上小学校修了前 | 10,000円 (第3子以降は15,000円) |
中学生 | 一律10,000円 |
児童手当を受け取る人には、扶養親族等の数に応じて所得の上限があります。たとえば、子ども2人と年収103万円以下の配偶者が扶養親族である場合、736万円(収入になおすと917万8,000円)の所得制限限度額が設けられています。
この場合の「所得」とは、世帯の合計ではなく、あくまで世帯の中で多く収入を得ている人の所得です。
所得制限限度額以上の所得があると、児童手当がまったくもらえないというわけではありません。所得制限限度額以上の所得がある人に対して支給されるのが「特別給付」です。特別給付は児童1人あたり月額5,000円が支給されます。
なお、児童手当や特別給付の受給者は毎年6月に「現況届」を市区町村役場に提出する必要があります。自治体は現況届により、受給者がその年の6月以降の児童手当や特例給付を受ける要件を満たしているか確認します。
2022年10月給付分から特例給付にも所得上限
現在、特別給付については所得制限限度額が設けられていません。2022年6月に改正される児童手当法では、特別給付にも所得上限を設け、上限額を超えた人は特例給付の対象外です。児童手当は12カ月分を6月・10月・2月の年3回に分けて支給されます。この改正は2022年10月支給分から適用されます。
2021年11月の時点では特例給付の所得上限について、児童手当のような扶養親族に応じた所得上限額は公表されていません。例として「扶養親族が子ども2人と年収103万円以下の配偶者である場合、年収1,200万円以上の人に対する特例給付を廃止する」という基準が示されているだけです。
また、内閣府の資料「子ども・子育て支援法及び児童手当法の一部を改正する法律案の概要」には「扶養人数に応じた所得額は政令で定める」となっています。のちに内閣府が出す政令の中で公表されるようです。
現在の児童手当や特例給付と、児童手当法改正後の特例給付の所得上限の関係をまとめると次のようになります。
・年収917万8,000円以上で児童手当の対象外となり、特例給付が支給される
・年収1,200万円以上で特例給付の対象外となる
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児童手当特例給付が一部廃止される理由とは
では、高所得者層を対象に児童手当の特例給付が廃止されるのはなぜでしょうか。その理由として2つの要因が挙げられます。それは「子育て支援策の充実」と「子供のために活用されていない手当の存在」です。ひとつずつ詳しく見てみましょう。
幼児教育・保育無償化など子育て支援の充実
2019年10月から幼児教育・保育の無償化(幼保無償化)が始まりました。原則、世帯の所得に関係なく3歳から5歳までの子どもについて、「子ども・子育て支援新制度」の対象となる幼稚園や認定こども園、認定保育園、企業主導型保育などの利用費が無料となります。制度対象外の幼児教育・保育施設についても補助金が出ます。
また、2020年4月からは私立高校授業料実質無償化や高等教育無償化も導入されました。経済的に厳しい世帯であっても、学ぶ意欲のある子ども希望する高校や大学に進学できる道が開かれました。
手当の使い道が決まっていない高所得世帯
厚生労働省が行った児童手当についての調査によると、高所得世帯ほど「児童手当を使う必要がなく、残っている」と回答した割合が多くなっています。
年収1,000万円以上の世帯では、17%が「残っている」との結果に。
現在、医療や介護、子育てなどの社会保障費は増加の一途をたどっており「必要なところに正しく予算を使うべき」という論調が大きくなっています。特例給付に所得制限を設け、制限限度額以上の人について廃止することになった背景には「使われない給付」を必要なところに支援を使う意図があるのです。
なお、今回の廃止によって特別給付の対象外となる子どもの数は約61万人、全体の4%になると見られています。
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廃止された児童手当特例給付分のお金は…
政府は「社会保障費は使うべきところに正しく使う」という考えのもと、児童手当特例給付の廃止によって浮くお金を、待機児童対策に活用する方針を示しています。
少子高齢化によって日本の労働力低下が懸念されている中、子育て世代が育児と仕事を両立できる環境づくりが重要になります。
待機児童解消の費用として使われる
児童手当特例給付の一部廃止によって、年間約370億円のお金が浮くといわれています。政府はこのお金で2024年度までに、新たに14万人分の保育園整備などを行うとしています。
2021年4月現在、全国の認可保育園などの待機児童は5,634人となっており、前年の1万2,439人から半分以下にまで減少しました。しかし「待機児童」とは、認可保育園などに申し込んで入れなかった児童のうち、認可外保育施設に入った子どもや、養育者が求職活動をしていない子どもなどを差し引いた数を表しています。
実は、2021年に認可保育園に申し込んで入れなかった児童は8万6,095人にのぼっています。今後も、認可保育園を増やしていく必要があるでしょう。
児童手当特例給付の一部廃止に批判の声も
今回の改正に対しては
「高所得者だけを対象にして不平等だ」
「子育てを行うための児童手当を待機児童対策に使うのは、筋が違うのではないか」
「待機児童対策には新たに予算を設けるべき」
という批判の声が上がりました。
また、今回の改正では世帯の中で多く収入を得ている人を対象に、特例給付の所得上限額が設けられました。しかし、今後は世帯合算で上限額が設定されるのではないか、と危惧する声もあります。
今後、特例給付も含め、児童手当そのものにも改正の手が加えられるのか注視する必要があるでしょう。
おわりに
2022年10月支給分から児童手当の特例給付に所得上限額が設けられ、要件を満たす高所得者の特例給付が廃止されます。政府は「本当に必要な部分に資金を投入して子育て支援を行う」という方針を打ち出していますが、批判的な声もあります。
今回は世帯収入での上限ではありませんでした。今後、世帯で合算した額に対して所得上限額が設定されるのか、また児童手当法のさらなる改正があるのか注意したいところです。
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企業取材や社史制作をメインに、子供の出産を機に教育や会計などの記事も手がけています。家族は小学生高学年の娘、夫。関心事は教育やライフプランのことなど。「これからの時代を生きるために必要な力って何?」をテーマに、日々考えています。
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