労働条件が劣悪なブラック企業が問題になると同時に、教員の働き方改革が話題になっています。学校の先生の忙しさは驚くほどで、精神的に追い詰められ、休職する教員も増えています。このような状況を踏まえ、文部科学省は教員の労働環境改善の取り組みを始めました。教員の働き方改革は、学校や子どもたちに何をもたらすのか、考察をまとめました。
教員の働きすぎる実態
「学校の先生は、長いお休みがあっていいですね」と一般の方は思っているかもしれません。しかし、それは勘違い。子どもたちが長期休暇をとっている期間も、学校の先生は仕事をしています。長期休暇中は研修や会議、出張など、子どもたちがいる間は取り組みにくい業務を中心に、授業研究や課題に取り組んでいるのです。「子どもたちのため」と、がんばる先生ほど、過酷な労働環境で仕事をしています。
過労死ライン越えの残業時間
実際の先生たちの労働時間を調査してみると、小学校で約3割の先生が、月80時間を超える時間外労働をおこなっています。「月80時間」とは、俗に過労死ラインと呼ばれる数字です。労災認定において、月80時間以上の残業は過労死を引き起こす恐れがあるという、因果関係が認められています。しかも、この残業時間は学校に居残って仕事をした時間です。通知表の記入や教材の準備など、自宅に持ち帰っておこなった業務時間は数えられていません。こうした時間を含めると、約6割の先生が過労死ラインを越えた労働をしているという調査結果もあります。これは飲食産業や医療などの他業種に比べても、格段に多い数字です。
マルチタスクを強いられる現場
先生の労働時間が長くなるのは、多くの業務を一手に引き受けているからです。基本的な学習活動に関しては、授業計画立案、プリントや教材の準備、テストの作成、採点、成績付け、宿題の設定、提出確認、など。生活関連では、登下校・清掃・給食指導、係・班の活動指導、学校行事の準備、教材費・クラス費の集金など。このほかに、学年会議や保護者への対応、報告書の作成といったさまざまな仕事があり、先生はマルチタスクを強いられています。子どもが学校へいる間にはできない業務もあり、どうしても残業や持ち帰りの仕事が増えてしまうのです。また、部活動の指導担当者は、土日の休日出勤も必要です。
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働き方改革はどう進むのか
こうした過酷な状況調査を受けて、文部科学省は教員の働き方改革に取り組むことを決めました。なにより、子どもたちの健康な心と身体の発達・成長のためには、指導する先生たちが心身ともに健康であることが重要だからです。政府は特別部会を設けて働き方改革のガイドラインを設定し、各都道府県の教育委員会へ通知しました。改革は、各教育委員会や学校の独自の取り組みにゆだねられています。
学校業務の事業仕分け
文部科学省が各教育委員会に示したガイドラインによれば、これまで教員が担当してきた学校業務の中で、必ずしも教員がおこなわなくてもよい業務があります。例えば、校内清掃や部活動、調査・統計などに関する回答、児童生徒の休み時間の対応などです。実際に、ある小学校では清掃の時間に地域ボランティアが訪れ、掃除の指導や手助けをしています。また、登下校に関する対応や、学校徴収金の徴収・管理、地域の夜間パトロールは、基本的に学校以外が担う業務だとされています。授業準備や学校行事の運営・準備に関しても、教員の負担軽減をはかるべきだという提言がなされており、実際にどのような対策があるのか、それぞれの自治体や学校で方法を模索しています。19:30~7:30は教員が学校にいても全て留守電対応と決めた学校もあるそうです。
働き方改革を阻む壁
文部科学省の指導で取り組む働き方改革ですが、現場にはこうした改革を阻む壁がいくつかあります。ひとつは、「子どもたちのために」という善意です。先生たちが過剰な労働時間を投じて仕事をしているのは、子どもたちによりよい教育を与えてあげたい、という熱意があるからです。これは保護者も同様で、学校行事の縮小や部活動の休日などについて、つい「子どもたちのためにならないのでは?」と考えてしまいます。しかし、限られた時間と人員でできることは限界があります。業務の効率化、生産性の向上をはかる努力をしたうえで、何を重要視するか、決断する必要があります。また、予算も大きな壁です。教員の業務を補助する専門スタッフの導入や、そもそもの教員数増加を検討するためには、一定の予算が必要になります。
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子どもたちも大学生になり、自分の子育てはひと段落。保育士として、地域のコーディネーターとして、子育て支援・子ども支援にかかわっています。ゆる~く子育て楽しみましょう!
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