2021年7月、中国政府は「義務教育の児童・生徒に対する宿題の量を減らし、小中学生を対象とする学習塾の新規開設を禁止する」という通知を出し、この政策は9月からスタートしました。
日本以上の学歴社会である中国で、このような「ゆとり教育」が行われるようになったのはなぜでしょうか。今回は、受験大国・中国がゆとり教育に舵を切った事情についてご紹介します。
中国版ゆとり教育「双減」とは?
中国政府が「ゆとり教育」政策を打ち出したのは2021年7月のこと。「義務教育の生徒(小・中学生)が負っている宿題と学外教育の負担を軽減する」という通知が発表されました。
この政策は、宿題と塾などの学外教育という2つの負担を減らすという意味で「双減」とよばれています。具体的にはどのような内容なのでしょうか。
宿題に費やす時間のルール化、就寝時間厳守
宿題について、小学1、2年は筆記式の宿題を出さないようにし、小学3~6年は1時間程度の量、中学生は90分程度の量を目安にしています。また、学校の放課後時間を一般企業の法定退勤時間まで延長し、教師が宿題や問題の解説などを行います。
一方、家では家事やスポーツ、読書などを奨励しています。保護者は宿題をやるように声をかけるのは問題ないですが、宿題を教えたりチェックしたりするのは禁止されています。中国の多くの小学校では、SNSで親と宿題の情報を共有し、宿題ができているかチェックするような体制になっているそうです。
こうした体制が親に負担をかけていることから、親の行動や家庭での子どもの過ごし方にも言及しています。
小中学生向けの学習塾は新規開設を禁止
学外教育についての大きな政策は、小中学生を対象とした学習塾の新規開設を政府が認めなくなったことです。既存の塾も営利目的の活動を行ったり、株式市場で資金調達を行ったりできなくなりました。夏期講習や冬期講習、休日の補習、就学前児童に対する英語などの学習指導も禁止されました。
また「公立学校の教師がお金を取って学習指導することを禁止し、見つかった場合は教員資格をはく奪する」としています。中国では、学校の人気教師が校外でお金を取って教えることは珍しくないそうです。
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中国のゆとり教育は少子化対策が目的
中国版ゆとり教育ともいえる双減対策が行われるようになった理由は、少子化対策です。子どもの教育に対する保護者の金銭的・精神的負担があまりに重く「子どもに満足な教育を与えようと思うと、1人で精いっぱい」と保護者が考えるようになり、子どもを2人以上育てることを躊躇していると政府は考えています。
そこで、中国の出生率の現状と教育事情について見てみましょう。
一人っ子政策が引き金となった出生率低下
1979年から2014年まで中国では、夫婦1組が持てる子どもを1人とする「一人っ子政策」が行われていました。1949年の中華人民共和国建国後に起きた、急激な人口増加を抑えるためです。やがて、この政策は出生率の低下を招きます。
2014年に生産年齢人口(15~59歳の人口)が減少したことをきっかけに、中国政府は翌年、一人っ子政策を廃止しました。しかし、中国の出生数は改善せず、2020年の出生数は1200万人で、2019年の1465万人から大幅に減少しています。
また、高齢化はさらに進展し、2020年における60歳以上の高齢者人口は18.7%を占めるようになりました。この数字は、2010年に行われた前回の調査よりも5.4ポイント上昇したことになります。
全国統一の入試「高考」で人生が決まる
中国の大学入試は「普通高等学校招生全国統一考試」、通称「高考(ガオカオ)」とよばれる試験の点数で決まります。試験実施後、各大学の合格基準が発表され、受験生は自分の点数で合格できる大学に出願します。出身大学が就職先にも影響するのはひと昔前の日本と同じ。しかも、高考は一発勝負となるため、北京大学をはじめとする名門大学を目指す子どもは、幼少時から勉強漬けの毎日を送るといいます。
小学校入学前から早期教育を始め、学校に入ってからは学校の勉強に加え、塾通いやピアノ、水泳などの教室通いが始まります。保護者は経済的な負担はもちろん、子どもの宿題の手助けもし、まさに親子で「高考」に人生を賭けているのです。
さらに、都市部の富裕層は教育にお金をかけることができますが、経済的に苦しい家庭は教育費を十分かけられず、教育の格差問題も大きくなっています。
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企業取材や社史制作をメインに、子供の出産を機に教育や会計などの記事も手がけています。家族は小学生高学年の娘、夫。関心事は教育やライフプランのことなど。「これからの時代を生きるために必要な力って何?」をテーマに、日々考えています。
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