あだ名を禁止し、男女問わず「さん」付けで呼ぶ小学校が増えています。その背景には、学校がいじめの防止に責任を持つよう、法律で定められていることが影響しているとみられています。ただし、小学生のあだ名禁止について、大人からかならずしも賛同を得ているとはいえない状況です。今回は小学生のあだ名禁止をめぐる問題について、ご紹介します。
小学生のあだ名を禁止する学校が増えている
近年、あだ名ではなく「〇〇さん」と呼び合うように指導をしている学校が増えているようです。実際、筆者の子どもも学校ではあだ名ではなく、男女ともに「〇〇さん」と呼ぶように指導されています。
友だちの呼び方について、学校で指導をするようになったのは、子どもを取り巻く環境が影響しているようです。具体的にどのような背景があるのか見てみましょう。
「いじめ」の定義と小学生のあだ名との関係
学校がこうした指導をするようになったのは、2013年にできた「いじめ防止対策推進法」や、2017年に文部科学省から発表された「いじめの防止等のための基本的な方針」と「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」(以下「文科省によるガイドライン」)が影響しています。
いじめ防止対策推進法や文科省によるガイドラインでは、「いじめ」の定義を「心身の苦痛を感じているもの」とし、具体的ないじめの態様のひとつとして「冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」ことを挙げています。また、この法律やガイドラインでは学校に対し、いじめの早期発見・組織的な防止と対策・いじめが発生した場合のすみやかな対処を求めています。
いじめが深刻化した例で「嫌なあだ名で呼ばれた」という事例がしばしば挙げられていることから、多くの学校があだ名を禁止することでいじめの防止や早期発見につなげようとしているのです。
男女とも「さん付け」にはLGBTへの配慮も
小学校ではあだ名を禁止するとともに、男女問わず「さん」付けで名前を呼ぶよう指導しています。これはLGBT(性的マイノリティの総称)に配慮した取り組みによるものです。2010年文科省は「児童生徒が抱える問題に対しての教育相談の徹底について」の通知を教育現場に出し、性同一性障害のある児童生徒に対してきめ細やかな対応と配慮を行うよう求めています。
2019年、LGBT総合研究所20~69歳の40万人超を対象に行ったアンケートによると、LGBTに該当する人は約10%いることがわかりました。未成年のLGBTに関する統計はありませんが、LGBTを自覚した時期として第二次性徴が始まったり恋愛感情が芽生えたりするころを挙げる人が多く、小学生高学年には数%程度いると推察されます。小学生のうちから性の多様性に配慮することは、けっして早すぎる話ではありません。
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小学生のあだ名禁止に大人は困惑気味
いじめ防止のために取り入れられた「あだ名禁止」ですが、日本トレンドリサーチが2000年11月、男女1,400名にインターネットで行った「あだ名に関するアンケート」において、「あだ名禁止」に「賛成」18.5%、「反対」27.4%、「どちらでもない」54.1%という結果が出ました。
アンケート結果を見ながら、大人が小学校の「あだ名禁止」についてどのように考えているか見てみましょう。
あだ名の是非は呼ばれる側の気持ちがカギ
「小学生の頃についていたあだ名について、今どのように考えているか」という質問に対して、「良いことだと思う」「どちらかといえば良いことだと思う」と答えた人は、78.6%にのぼりました。その理由について「あだ名のおかげで親しみが感じられ、友人との距離が近くなる」といった、人間関係面でのメリットを挙げる意見が多く寄せられています。
一方、「悪いことだと思う」「どちらかといえば悪いことだと思う」と答えた人は、「自分では納得できないあだ名だから」「良いあだ名かどうかは言われている本人にしか分からない」といった理由を挙げています。あだ名のデメリットは「呼ばれる側を傷つけることがある」ということに尽きます。
あだ名が「良いもの」となるかどうかは呼ばれる側の気持ちによるところが大きく、「良くない」思いをする人に対する配慮は必要です。このアンケートで「小学生の頃についたあだ名について、嫌な思いをしたことがある」と答えた人が36.7%いました。数字の多少よりも、嫌な経験をした人が一定数いるという事実を見逃すことはできません。
あだ名禁止は大人の考えの押しつけになる?
学校における「あだ名の禁止」について「賛成」と回答した人の理由を見ると、「あだ名には良し悪しがあるので『〇〇さん』と呼んだ方が、問題が起こらない」「トラブルの元を断っておくことは重要」といった意見が挙がっています。一方「反対」の理由としては、「『変なあだ名禁止』というのはわかるが、あだ名自体を否定するのは交流の妨げになる」「大人の考えの一方通行」といった意見がありました。また「どちらでもない」と答えた人は「あだ名禁止にすることに違和感はあるが、そうなる背景は理解できるのでどちらともいえない」と回答理由を挙げていました。
あだ名を禁止することについて、「趣旨は理解できるが『あだ名は悪いもの』という考えを子どもに押し付けるのではないか」と危惧している人が多いようです。
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企業取材や社史制作をメインに、子供の出産を機に教育や会計などの記事も手がけています。家族は小学生高学年の娘、夫。関心事は教育やライフプランのことなど。「これからの時代を生きるために必要な力って何?」をテーマに、日々考えています。
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