近年、日本の幼児教育機関では、オランダ発祥の「ピラミッドメソッド」という教育方法を取り入れている保育園や幼稚園が増えてきています。ここでは、ピラミッドメソッド教育とはどのような教育方法なのか?取り入れることによってどのような効果があるのかについて、ご紹介します。
学力テスト上位のオランダ教育法『ピラミッドメソッド』とは?
2007年のユニセフによる調査によると、加盟国25カ国を対象にした子どもの幸福度調査でオランダは総合1位になっており、毎年各国で開催される子どもの学力調査でもオランダは上位常連となっています。
この結果の背景にはオランダ発祥のピラミッドメソッド教育法の導入が大いに影響しているといわれており、近年ピラミッドメソッドは各国の教育機関に注目されつつあります。
自分で考え、決定ができる子どもを目指す教育方法
ピラミッドメソッドという教育方法は、オランダ政府教育機構(Cito)が考案した教育法で、その目的は自分で物事を考え、決定ができるという自主性の獲得です。「自分で選択し、物事を決断する力」を持つ子どもたちは、自分に自信を持つことができ、困難な出来事に見舞われたとしても、冷静に自分がすべきこと、できることを考えることができるようになります。
ピラミッドメソッドの四つの基礎理念
ピラミッドメソッドには、土台となる以下四つの理念があります。
1.子どもの自主性(やる気)
子どもたちは、「認められたい/自信を持ちたい」「学びたい/探索してみたい」という欲求をいつも持っています。そういった欲求を満たしてあげることで、自分たちの身の回りの世界に対する“自主性”が育まれます。
2.保育者の自主性(働きかけ)
子どもの自主性を育むために保育者がすべきことは、子どもが安心して過ごせる保育環境を整えることや、自身の能力を信じてのびのびと行動できる支援、子どもが自主性を持って行動できるような程よい働きかけとしています。
3.寄り添うこと
子どもが安心して探索活動にエネルギーを注ぐには、保護者や保育者との信頼関係が必要不可欠となります。また、良好な信頼関係を築くこともとても大切です。
4.距離をおくこと
目の前にある物事だけに目を向けるのではなく、目に見えない想像力を必要とする物事を考え、表現できるようになると、子どもの自主性の発達が促されるとされています。具体的な事柄から、徐々に抽象的な世界へと視野を広げていく取り組みをします。
保育者の関わり方も日本の保育と違う?
日本の保育者の関わり方はどちらかというと指示的です。日本の保育園や幼稚園では、園児がみな一斉にいろいろな物事に取り組むためです。しかしピラミッドメソッドでは保育者の関わり方の特徴は少し違ったものになります。具体的には、
- 基本的には見守る姿勢。あくまでも子どもたちの自主性に任せる。
- 時には一緒に考える
- 集団ではなく、ひとりひとりの子どもと向き合う
- 物事を与えるのではなく、意欲を引き出す
上記のような見守る姿勢を大切にしながら、時に一緒に考え、答えを教えるのではなく導くことを大切にしています。
遊ぶ環境は与えるのではなく、子どもが「○○したい」という気持ちを引き出すというあたりが、日本の保育との大きな違いではないでしょうか。
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ピラミッドメソッドは日本の保育園でも取り入れられている
近年では、ピラミッドメソッドを取り入れる日本の幼稚園や保育園も増えてきています。保護者の中には、わざわざピラミッドメソッド教育法を取り入れている保育園を選んで、入園させるという方も多いそうです。
ピラミッドメソッドを取り入れている園は、通常の園とは教育方針や取り組みが違うので、もし入園を希望するのであれば、あらかじめ年間行事や1日のタイムスケジュールを確認しておくのもいいかもしれませんね。
画一化されているものではないため、園によって取り組み方も少しずつ違います。多くの園が取り入れている取り組みや、カリキュラムの一部をご紹介しましょう。
遊びコーナーを準備。自分で遊びを選択する
通常の園であれば、「今からみんなで折り紙をしましょう」「絵をかきましょう」など一斉に○○をするという取り組みが一般的ですが、ピラミッドメソッドではあらかじめ、「おりがみコーナー」「お絵描きコーナー」「積み木コーナー」など目に見える形で遊べるスペースを確保しています。そして子どもたちは、自分たちで好きな遊びを決めて、取り組みます。
時には希望者が多く、遊びたいと思ったコーナーで遊べないこともありますが、譲りあったり、ボードを使って予約をしたりして自分でスケジュールを管理する練習をする園もあるそうです。子どもはゆっくりと取り組みに集中できますし、自分で選択しているということが自信につながります。
昼食は好きな時に。いつ食べるかは自分で決める
通常の園ではもちろん昼食も一斉に行いますが、ピラミッドメソッドを取り入れている園の多くは、昼食も自分の好きな時に食べるスタイルを採用しています。「今は混んでいるからもう少し後にしよう」「今日は人気メニューだから、早い時間に混んでいるね」などと園児同士が会話しているそうです。
こうすることで、自主性が育つだけでなく、さまざまな物事を考慮しながら頭を使う訓練にもなるのです。
長期的な取り組み「プロジェクト」で目的意識を持てる
日本の幼稚園や小学校にありがちなのが、「指示されたことをいわれるがまま取り組み、なんとなく日々が過ぎていく」ということです。しかし、ピラミッドメソッドでは月ごとにテーマを決め、毎週テーマに沿った取り組みに挑戦するという「プロジェクト」方式の教育方法を設けています。
例えば、今月のテーマは「色と形」にまつわるもの。
【1週目】
いろんな色や図形の折り紙をディスプレイしながら、図形がどんなものに似ているかシェア。(りんごに似ている、バナナに似ているなど)
【2週目】
図形に似ている色と形をしている実物を触ったりにおいを嗅いだりしてみる。
【3週目】
身の回りにある、いろんな色や形をしたものを遊びながら学ぶ。
【4週目】
学んだ身の回りにあるものを使って、お買い物。
このように、その日その日に終わる取り組みではなく、一連の流れがある長期的な取り組みをすることで、目的意識を持ちながら日々を過ごせるところも、ピラミッドメソッドの特徴です。
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福祉系大学で心理学を専攻。卒業後は、カウンセリングセンターにてメンタルヘルス対策講座の講師や個人カウンセリングに従事。その後、活躍の場を精神科病院やメンタルクリニックに移し、うつ病や統合失調症、発達障害などの患者さんやその家族に対するカウンセリングやソーシャルワーカーとして、彼らの心理的・社会的問題などの相談や支援に力を入れる。現在は、メンタルヘルス系の記事を主に執筆するライターとして活動中。《精神保健福祉士・社会福祉士》
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