全国の小学校には、築30年以上がたち、改修の時期を迎えているプールがたくさんあります。ただし、そのタイミングで改修をせず、プールを廃止するケースも出てきています。すでにプールを廃止した小学校の取り組みを通じて、小学校がプールを廃止する理由や廃止のメリット・デメリット、プール廃止後の水泳指導についてご紹介します。
築30年超の小学校のプールが抱える課題
ここ数年、全国の小学校でプールを廃止する動きが出ています。築30~40年のプールが老朽化を迎え、改修をするかどうか検討する中で「廃止」を決断するケースが増えているからです。行政において「コスト管理」が厳しく問われる今、「小学校にはプールがあって当たり前」という光景は変わりつつあるようです。
プールを維持するには多額の費用がかかる
小学校で水泳の授業を行うのは6月半ばから1学期の終わりまで。長くても、9月の初めで終わるところが多いでしょう。その間に行われる水泳の授業は10回程度。夏休みのプール開放の期間を含めても、プールを使用するのは3カ月弱です。
ところが、愛知県西尾市の計算によると、プールを運営・維持するために1年間かかる費用(修繕費や水道料金、消毒薬など)は一つの小学校当たり約600万円となり、決して自治体の負担は小さくありません。
改修・立て替えをしない自治体が増加
プールの運営・維持費がかかる一方、少子化によって小学校の児童数は減るばかりです。しかも、プールの授業は年間10時間程度。毎年数百万円もの費用を投じて、プールを各学校で維持する意義が問われるのも当然の流れでしょう。
千葉県佐倉市では、小中学校34校のうち、平成26年度までに小学校2校の老朽化したプールを、改修せず廃止。あとで詳しく述べますが、水泳の授業を民間のスイミングスクールで行うことにしました。佐倉市によると、プールを改修して使い続けた場合とスイミングスクールに授業を委託する場合を比較した場合、今後30年間で後者の方が9000万円の経費節減につながると試算しています。神奈川県海老名市でも、すでに19の小中学校にあったプールを全廃。その多くは取り壊されていますが、中には釣り堀に再利用されているものもあるそうです。他に徳島市や名古屋市などの小中学校で、老朽化したプールを改修・立て替えしないまま廃止する事例がありました。
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学校にプールがなくても水泳の授業はできる
小学校では、年に10時間ほど水泳の授業が義務付けられています。コスト重視によってプールを廃止すると、水泳の授業をどこで行うのかが問題になります。民間のスイミングスクールや市営プールを活用することで、問題解決を図る自治体の例をみてみましょう。
地域のスイミングスクールに指導を委託
先ほど述べたように、千葉県佐倉市では民間のスイミングスクールで水泳の授業を行っています。水泳の授業になると、児童は送迎バスで向かい、授業は担任とスクールのインストラクターが行っています。民間のスイミングスクールへの委託は、コストを抑える以外にもメリットが生まれました。児童が、スクールのインストラクターによる専門的で安全な水泳指導を受けられるという点です。小学校の教員には体育の専任教員がおらず、これまでは専門的な水泳指導を行うのが難しいという面がありました。
また、児童がプールで溺れたり、体調不良になったりした際のアクシデントにうまく対応できないというリスクもつきまとっていました。専門のインストラクターが指導することにより、教員の負担軽減につながったのです。
複数ある市営屋内プールを活用する
民間のスイミングスクールと並び、自治体が運営する公営プールを利用するケースもあります。徳島市では、15ある中学校のうち、6校が公営プールを利用して水泳の授業を行っています。
また、プールをすべての小中学校で廃止した神奈川県海老名市でも、市内に4カ所ある運動公園内などの室内プールで水泳の授業を行っています。室内プールなので、5~10月の中で各校のスケジュールを調整することができます。千葉県佐倉市は、民間スイミングスクールを利用している2校だけにとどまらず、残りの小中学校32校についてもプール廃止の可能性を調査しています。現在2カ所ある市営屋外プールを屋内型に改修して事業に活用したり、民間委託を活用したりして水泳の授業を行えないか探っているとのことです。
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企業取材や社史制作をメインに、子供の出産を機に教育や会計などの記事も手がけています。家族は小学生高学年の娘、夫。関心事は教育やライフプランのことなど。「これからの時代を生きるために必要な力って何?」をテーマに、日々考えています。
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