給食費の未納問題が取り上げられるようになって久しい今、自治体も問題解決にさまざまな手を講じています。未納家庭に対しても、厳しくかつ丁寧に対応することで、納付ができるケースが少なくありません。給食費を払わなければ、どうなるのか。また、自治体は未納をなくすためにどのように対処しているのか。さらには、一部の自治体で始まっている給食の無償化について、解説します。
給食費未納に対する学校・自治体の取り組み
ニュースなどで時折取り上げられる、小・中学校の給食費未納問題。学校側もさまざまな手段を講じて給食費の回収を強化しています。平成30年7月、文部科学省(文科省)は「平成28年度における学校給食費の徴収状況の実態調査」の結果を発表しました。前回、行われた平成24年度の調査時よりも、わずかながら改善されていることがわかります。
児童手当などからの天引きが増加
文科省の調査は、学校給食を実施している公立小・中学校約28,000校の中から、572校を抽出して行われました。未納者・未納額の割合は下記のとおり。平成24年度の調査よりもわずかながら減っています。
児童手当から給食費を徴収している学校の割合も、平成24年度の調査では30・9%だったのが、今回の調査では41・4%にまで上昇。受給資格者が申し出ると、児童手当から給食費を徴収ができるようになっており、学校が保護者に児童手当から給食費を差し引く申し出をするよう、促していると思われます。
調査に「実際に実施した徴収方法で、効果があった取り組み」という項目がありますが、「児童手当からの天引き」「就学援助制度等からの天引き」を挙げている学校が多く見られました。また、学校ではなく「自治体が保護者から直接徴収する」という事例もありました。
給食費を払わないと最終的には強制執行も
給食費を払わなければどうなるのでしょうか。筆者が住む大阪市の場合、市立小学校は毎月、学校が指定した金融機関から口座振替で給食費を徴収しています。もしも口座振替日に給食費が落ちなかった場合、学校から未納通知書と納付書が封筒に入って配布されます。納付書には納付期限が記載されていて、その日までに指定の金融機関・郵便局・区役所窓口などに支払えば、問題はありません。
未納通知書・納付書が届いても支払わなかった場合
未納通知書・納付書が届いても支払わなかった場合、納付期限の40日以内に督促状が届きます。督促状の発行日から10日以内に、給食費を納付しなければなりません。それでもなお、納付がない場合は、学校が保護者に電話をしたり、面談を行ったりします。ここで、就学援助制度などの該当者で申請を行っていない保護者には、活用するように促すといったことも行われます。
納付できない正当な理由(病気や失業など)あれば、「分納誓約書」を提出し、分納するように促されます。分納誓約書の提出がない場合は学校から納付を促す「催告書」が届くとともに、面談・電話も行われます。
何度納付を呼びかけても納付がまったくなく、未納給食費が累積3回分になると、再度「催告書」が発行されます。しかし、これでも給食費の納付がない場合、これまでは学校が納付を促していましたが、この先は教育委員会が回収業務を引き継ぐことになります。
「催告書兼納付書」が届いても未納が続く場合
教育委員会から「催告書兼納付書」が届いても未納が続く場合は、ケースによって法的措置を行うこともあります。教育委員会は最終的に簡易裁判所に訴えますが、それでも未納者が異議申立をせず、給食費の納付もない場合は裁判所から財産の差し押さえ命令が出され、強制執行が行われます。
このように、給食費の未納入から財産の差し押さえまでの間には、いくつもの段階があり、「未納、即差し押さえ」にはなりません。しかし、先ほどの文科省の調査によると、平成28年度には全国で8件の法的措置が取られています。
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未納の増加は保護者のモラル低下が原因か
文科省の調査で、学校が未納の原因をどのように捉えているかという項目があります。それによると、「保護者の経済的な問題」と考えている学校が18・9%であるのに対し、「保護者としての責任感や規範意識」と考えている学校が68・5%にのぼっています。つまり、学校側は「本当は払えるのに、払わない保護者が相当数いる」と考えているのです。
学校側の意識と実情のズレはないか
給食費未納の原因について、「保護者の経済的な問題」と考えている学校は2割弱。平成24年度の調査では33・9%となっていたのが、15ポイントも下がっています。逆に「保護者の責任感」と考えている学校は、平成24年度の61・3%から今回は68・5%に上昇。ここ数年、学校や教育委員会が危機感から給食費未納の問題に力を入れた結果、「丁寧に対応をすれば納付できる家庭が多い」と学校側が実感しているのかもしれません。
しかし、「保護者のモラルが低下した」という見方は、あくまで学校側の意見です。たしかに、給食費未納がニュースなどで報じられると、立派な家に住んでいるのに給食費を滞納している例など、「払えるのに払っていない保護者」の例がよく持ち出されます。
ところで、学校の「未納の保護者は払えるのに払っていない」という判断は、何か判断材料があるのでしょうか。文科省の調査には、「未納家庭の学校外滞納についての学校の把握状況」という項目がありますが、「学校外の滞納を把握している」は1・9%、「学校外の滞納の一部を把握している」は4・6%にとどまり、残りの93・5%の学校は給食費以外の滞納を把握していません(ここでいう「学校外の滞納」とは、税金や健康保険料、水道料などを指します)。学校側の意識と実際の、未納家庭の状況との間には、ズレがある可能性もぬぐえません。
未納保護者に対する学校の取り組み
未納保護者に対しては、先ほど述べたように児童手当から天引きするほか、度重なる督促を無視する長期・高額滞納者に対しては、督促状の発送や納付相談などの滞納整理業務を弁護士に委託する自治体もあります。さらに、先述したように近年は差し押さえなどの法的措置も積極的に行っています。
また、未納の給食費を回収することに力を入れるだけでなく、課題を抱える家庭への支援にも取り組んでいます。就学援助制度などの活用を勧めるだけでなく、スクールソーシャルワーカーや福祉関係機関などへの支援へつなぎ、家庭の経済状況そのものの改善に結びつける動きもあります。
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企業取材や社史制作をメインに、子供の出産を機に教育や会計などの記事も手がけています。家族は小学生高学年の娘、夫。関心事は教育やライフプランのことなど。「これからの時代を生きるために必要な力って何?」をテーマに、日々考えています。
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